脱皮の日
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第二話 脱皮族の能力

★前回までのあらすじ★

唇の皮が一気に全部はがれてしまったさと子は母に助けを求めた!
しかし母は冷静に、自分達家族が「脱皮族」であることをさと子に告げる。
そして母は、自分の顔の皮をゆっくりと剥がした。



★第二話★


「ひぃぃぃいいいいぃぃい!!」

さと子は、叫んだ。

まるでSK2のパックを剥がすかのように、母は自分の顔の皮を全て剥がしたのだ。

母が剥がした顔の皮はひらひらと床の上に落ちた。

その皮の形は、まさにSK2のパックそのもので、直径30cmほどの円の中に、目と鼻と口の穴が不気味に開いていた。

そして母は、床の上に落ちた自分の顔の皮を摘まみ上げて言った。

「さと子、唇の皮だけで驚いてはダメよ。見なさい、母さんなんて顔の皮まで剥がれてしまったわ」

「母さん!病院へ行きましょ!今すぐ病院へ行ってお医者様に診てもらいましょうよ!!」

さと子は、母にすがりついて懇願した。

けれど母は、ヒラヒラと皮を揺らしてさと子に言った。

「さっきも言ったでしょう。さと子。私たちは脱皮族なのよ。お医者様にそんなこと言ったってどうしようもないわ。私たちは脱皮する生き物なのよ」

「え!?」

「…さと子、母さんはあなたが13才になったら話そうと思ってたわ。そうよね、あなた」


その時だった。

部屋のドアが開いたと思ったら、そこから父が溜め息まじりに顔を出した。

そして、父は言った。

「ああそうだ、母さん。父さんも、さと子が13才になったら全てを話そうと思っていたんだ」

「父さん!」

「さと子、母さんの言う通り、医者などに言ってもどうしようもない。何も解決しやしない。俺たち家族は脱皮族という種族なんだ」

「何よそれ!私たち普通の人間じゃないっていうの?」

「そうだ…。だが、さと子。脱皮族は、本当にありがたい能力を持っているんだ」

「何?」

「それは脱皮族という名前の通り、脱皮をできることだ」

父は、母が持っていた顔の皮を指差して。

「ほら、今母さんが顔の皮を剥いただろう。これが脱皮だ。脱皮族は、四年に一度…つまりオリンピックと同じ周期で顔全体の皮を脱皮することができるんだ」

「脱皮してどうしろっていうのよ!」

「まぁ、よく聞きなさい」

父はさと子を諭した。

「さと子、お前はまだ13になるかならないかの年だからわからないだろうが…人間という生き物は歳をとるにつれて、肌の状態もだんだん悪くなってくる。シミや黒ずみが目立つようになったり、毛穴が開くようになったり…それに思春期にはニキビだって出来る」

父は両手に握りこぶしを作り力強く熱弁した。

「しかしな、脱皮族は四年に一度…自分の誕生日が近づくと顔全体の皮がカサカサしてきて、誕生日の前日に顔の皮が全てむけるんだ。そして皮が全てむけた後の顔は、新しい皮に覆われている。脱皮したんだ。この新しい皮にはシミや黒ずみなんてものは全くない!ツルツルスベスベの綺麗なお肌なのだ!」

そして母は父の熱弁に感極まって涙を流した。

「そうよさとこ!脱皮族の脱皮の力は神様が与えてくださった素晴らしい能力なのよ!!そうよね!あなた!」

「ああそうさ母さん!ほらさと子!母さんの肌を見たまえ!」

さと子は、母の顔の肌に触れた。

「ツルツルだわ!!母さんの肌ツルツルのスバスベでモッチモチだわ!おまけにシミや黒ずみなんて全くないわ!そして毛穴もクローズしてるわ!」

さと子は母の顔を撫で回した。

「そうださと子!母さんの肌は脱皮によって生まれかわったのだ!それにもうすぐお前の顔の皮も全て剥けるのだ!」

「え!?」

「唇の皮が剥けたなら、次は顔の皮が剥ける番だ!今日からお前の顔の皮も、唇がカサカサしたように顔の皮もカサカサする…そしてついに脱皮だ!」

さと子は自分の顔を撫でた。

「あ…!!何だか顔の皮がカサカサしてきてるわ!」

「そうだあなた!さと子が初脱皮したらお赤飯を炊きましょう!」

「ああそうだな母さん!赤飯に鯛のお頭付きだ!」

「そうしましょう!今月我が家の家計は既に赤字だけど赤飯炊いちゃうわ!鯛のお頭付きだってどーんと用意しちゃうわ!」


父と母は既にお祝いムードだった。

それを見ていたさと子は、何だか幸せな気分になってきた。


「父さん!母さん!私脱皮するわ!脱皮することを恐れててはいけないわね!私脱皮するわ!」

「そうださと子!」

「さと子頑張るのよ!」

「私頑張る!」


気がつけば、三人はそれぞれの手を取り合って涙を流していた。

さと子の脱皮はこれからだ。

つづく(多分)

第一話 皮が剥けた日

 ある日、さと子は唇がいつもより荒れていることに気がついた。

さと子の唇は、小さな頃からよく荒れていたりしたが、今日の唇はいつもよりガサガサに荒れていた。

唇の皺も、いつもより白く目立ち、少し唇をこするだけでボロボロと皮が剥けた。

さと子はリップクリームを塗った。

毎日塗った。

しかし、唇の調子は一向によくなることはなく、むしろ荒れる一方だ。

さと子は、サランラップとハチミツで唇パックにも挑戦した。

けれど、日増しに唇は荒れてゆき…。



「お母さん!!お母さーーん!!」


唇が荒れ始めてから一週間が経った時のことだった。

さと子は、少し剥けかけた唇の皮をゆっくりとめくると、なんと一気に唇全体の皮が剥けてしまったのだ。

さと子は叫んだ。

そして母を呼んだ。

さと子の右手には、唇の形をした唇の皮が…。

駆けつけた母は、さと子の唇の皮とさと子の顔を交互に見た。

そして。

「仕方がないのよ、さと子」

母は冷静だった。

「何が仕方ないのよ、お母さん!私の唇の皮が全部むけちゃったのよ!?」

慌てふためくさと子に、母は静かに言った。

「さと子、唇の皮が剥けたくらいでそんなに慌ててはダメよ」

「え?」

「さと子、よく聞きなさい。…さと子、私たちは普通の人間じゃないの」

「普通の人間じゃないってどういう事よ!」

「さと子…あなたの皮が剥けるまで私たち家族は黙っていたけれど…私たちは、脱皮族なのよ…」

そして母は、自分の顔の少し剥けかけた皮を摘むと、ゆっくりとそれを剥がした。

つづく(多分)